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吼える月
第24章 残像
「お前ががっちがちのシバと組んだら、蒼陵はまとまるかもな」
「なに、突然。もう組んでいるでしょう?」
「あははは。未来も、の話だ」
そしてサクは顔から笑みを消して、テオンに尋ねた。
険しく細められたその目には、青龍殿が映っている。
「……なあ、テオン。今まで連れて来られた大人の人数は、ざっとどれくらいだ?」
「収集規模は、蒼陵国の全ての街や集落からだから、今までとなれば、100人はくだらないね」
さらにサクの目は、剣呑さに細まる。
「普通に考えて100人も収容できるか、あの場所に。不可能ではねぇのかもしれないけど、ぎっつぎつだよな、どう考えても」
「ぎっつぎつでもいればいいけど、外部はおろか、内部の者も誰ひとりとしていないんだよ……」
テオンが途方に暮れた眼差しを建物に送りながら、渦の消えた青龍殿に、ゆっくりと船を進める。
ユウナを残した【海吾】の根城もそうだが、青龍殿も浮き石という特殊なものを土台にしている。近くに寄ると、青龍殿の建物に対しての割には、思った以上に広い面積があるようだ。
渦があるから、高い外壁の存在がなくともいいだろうことはわかったが、そんな防護機能が必要ないのなら一層、土地が広すぎる。
庭のつもりにしては、装飾がなにもなく砂と岩石だらけで殺風景だし、なにより渦に巻かれた時間が多いのに、散歩や海の鑑賞もあったものではないだろうし、人物自体建物に存在していないらしいのだ。
浮石は希少価値ある特殊素材のはずだが、随分と無駄な使い方をしているように思えた。
そして何より――。
「お前達のもそうだが、海に浮かぶ土地は、建物ごと漂流したりしないのか?」
間近で見れば不思議である。
風でも船は揺れるのに、浮石は揺れずに固定されることが。