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吼える月
第24章 残像
「これじゃいかんだろう。蒼陵の、祠官や武神将が居る場所としては」
「移転前は物々しいほど警備が凄かったんだけれどね。移転後、警備兵は解雇され、使用人も多少はいたんだけれど、だけどご覧の通り、今はもぬけの殻さ。そのくせ、父様の薬は減っているわ、清掃された形跡があるわ。この時間に僕、ここにくるのは滅多にないんなんだけど、夜もいないのなら、いつどこから戻ってきているのか。どう思う、お兄さん?」
「そこで俺に振るな。とにかく、観察! 違和感を見つけて、それを手がかりにして進んで行くしかねぇだろう。つーか、このままじゃ暗くて細やかな観察もなにもできねぇ。灯、灯! まずはこの屋敷に灯!」
「そこらへんはばっちり!! ちゃんと夜に備えて、燈篭に火を灯すための火打ち石も持参! だけどお兄さん、問題がある」
「なんだ?」
「あそことかあそことか、天井近くに燈篭があるんだけれど、高すぎて背伸びしても手が届かない。踏み台探すのもなんだから、肩車してくれない?」
「お前、年上のくせになに子供じみたことを……」
「年は関係ないだろう? お兄さん、無駄に大きいんだから。だったらお兄さんが灯つけてみる? お兄さんは武器の扱いと"あること"にはとっても器用だけれど、それ以外は思いっきり不器用なんだって、ユウナ姫……お姉さんがそう笑っていたけれど。ねぇ、"あること"って?」
「……っ、ゲホッ、ゲホゲホゲホッ!!」
途端サクはその場で蹲り、身を丸めて咽せてしまう。
「大丈夫、お兄さん。頑丈そうなのに、なんだか咳き込んで死にそうだよ。ほら、しゃんとして、若いんだから!!」
「お、お前……背を撫でるどころか…、なんで俺によじ登って…ゲホゲホゲホッ!!」
「おお、いい眺め。さあ立って立って!! どうどう!!」
「おい、こらっ!! 俺は一応玄武の武神将なんだぞ? それを足蹴にして馬扱いしたりするなど……」
「お姉さんの馬乗りは許すのに?」
「……っ!? お前どこまで盗み聞いて……ゲホゲホゲホッ!!」
サクは目尻に涙を溜めて、胸をどんどんと拳で叩いて、呼吸を整えることに必死だった。