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吼える月
第24章 残像
目の前に広がるのは、神獣青龍が彫り込まれた大きな正面扉。
赤き月光によって輪郭を浮き彫りにされた厳めしい顔の青龍の顔が、凶々しい形相になっているように見えて、サクは苦笑する。
まるで、ジウが闘う時のような、迫力に満ちた凶相だと。
「中々に重厚な作りをしているな、この扉は。かなり高さもあるし、これなら大勢で攻め込んでもそう簡単には破れられねぇだろう。ギルやシバですら、これを開くのにきっと手こずる……」
「簡単だよ、ほら」
テオンが慣れた手つきでその扉を向こう側に押しやれば、扉はギギギと軋んだ重い音を立てながら、簡単に開いた。
「栓すらしてねぇのか、蒼陵の祠官の居城は!!」
「ん~、開けたまま全員出かけちゃったみたいなんだよね」
「なんだよ、その暢気な"全員でお散歩行ってます"みたいなのは!! その"出かけちゃった"間に、この屋敷奪いとられたらどうするつもりなんだよ!! しかも今、周りがよく見えねぇ夜だろう!? 危機感ねぇのか、お前の親父!! つーか、ジウ殿もさ。武神将のくせに、なんだよこの無防備さ!! 渦にどれ程自信持ってんだよ!!」
「僕に怒ったって……」
人家ですら、留守にするかどうか関係なく、日頃最低限の防犯措置として内から栓をするというのに、それすらなっていない、蒼陵国の主が住まう場所。これが黒陵であったのなら、ましてや自分が守る玄武殿であったのなら、こんな不用心な警備は許されない。
ひとりの護衛武官として、この無防備さに半ば唖然、半ば憤慨した心地となりながら、テオンに続いて未知なる領域に足を踏み入れた。
背後で大きな音をたてて扉が閉まっても、中から誰かが出てくる気配はなく、中はしんと静まり、灯がついていないために暗かった。
門戸を開いて敵を誘き寄せる、なにか罠らしきものが仕掛けられていれば、サクの鍛えられた直感がそれに反応するが、サクには危機感は感じ取れず、空屋独特の空虚さだけしか感じられなかった。
つまり、本当にただの空屋なだけらしい。
サクは脱力しながら、やるせないため息をついた。