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吼える月
第24章 残像
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満潮が近い海には絶えず波が大きくざわめいていた。
厚雲に覆われた鈍色の空。蒼陵国の海に生気の輝きをもたらすはずの太陽は、長らく雲間から顔をのぞかせず、不穏さを孕んだ薄闇の世界が渺々と広がる。
サクがユウナと別れて最初に迎えた朝の景色は、そんな様子だった。
「お嬢、お嬢大丈夫?」
イルヒが、目の前で四つん這い状態にて床に崩れたユウナに声をかけた。
「ええ、大丈夫よ、大丈夫。あたしはへこたれないもの。あたし……くっ」
自分に言い聞かせるようなその声音は心なしが憎々しげで、床をつくユウナの両手がぷるぷる震えているのは、それまでの屈辱と疲労を体現していた。
――娘さん、私は娘さんからの手からじゃないと食事したくない。
――ああ、娘さんが撫でてくれないと痛くて痛くて仕方が無いんだ。
――娘さん、眠そうだね。だけど私は眠くないんだ。眠れるように、歌を歌ってくれないか。娘さんが寝てどうするんだ、ほら歌、歌! 白目を剥くんじゃない、折角可愛い顔をしているのに。
――げほげほ、うっ……。娘さん、まさか病人をこんな埃っぽい処に寝かしはしないだろう?咳がでれば、傷口が痛むのに。ということで、隅から隅まで、きっちり掃除を頼むよ。ああ、雑巾がけは腰が基本だからね。そんなへっぴりでは埃は取れないよ。げほげほ……うっ、ああまだ咳が出るからやり直し。
再度目覚めたスンユという男、やたらユウナに構って貰いたがった。おかげでユウナは仮寝もできず、立ち寝をしても容赦なく向けられる我儘三昧に、ほとほと疲れ果てた。
他者からユウナに送られる哀れんだ眼差し。彼らが手助けをしようとも、スンユにしっしと軽く手で追い払われ、まるで戦力にならなかった。