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吼える月
第24章 残像
最初こそ、リュカと同じ顔を間近にすることに戸惑いがあったユウナだったが、ひとりの人間として、病み上がりの男を介抱するくらい快く……と応じていたのだが、なにせスンユは身体は動けずとも口は達者で、ユウナを扱き使うことをなんとも思っていないようで。
皇主といえばこの大陸の中心、スンユはその息子なのだから、簡単に人を使うことは問題ないのかもしれない……。
そう思いながらも、同様に人を使う側で育ったユウナにとって、今まで自分がしでかした気楽な我が儘に、下の者はどれほど忍耐を強いられただろうと思えば、懺悔と自省の念がわいてくる。
その贖罪のためにもと、意地と根性を見せるユウナに、やがてスンユが言ったのは――。
「娘さん。尿意があるのだが、溲瓶(しびん)でとってくれないか。ああ、大事に扱ってくれよ? ここが元気なくなってしまったら、泣き出す女性がたくさんいるんだから」
にやり。
リュカと同じ美麗な顔を、リュカが見せたことのない意地悪さに歪めて、しかしリュカ同様親しみこめて、ユウナを困らせる揶揄を平気で口にする。
「へぇ。その反応……、どういう意味か、娘さんはわかるんだ? そこのおチビちゃんはきょとんとしているが、そうだ。娘さんが教えてやったらいい。男のこの部分は……」
イルヒを使ってまで追いつめてくるスンユに、怒りを覚えたユウナは、
「いい加減に――っ」
とうとう病人の胸倉を掴む暴挙に出てしまう。
それに焦ったのは、ギルとシバ。スンユを味方に引き込みたい彼らにとって、ユウナが命に従わぬことからヘソを曲げられては困ると、必死にユウナを止めにかかる。
「離して、この上から目線のねじ曲った根性、あたし叩き直して……」
「叩き直さなくていいから、落ち着けっ!!」
「ちょっとギル!! どさくさ紛れて触るんじゃないわよっ!!」
「誤解だ、俺が触る時はもっと堂々と――」
「ねぇやけに度胸ある娘さん、惚れた男でもいるの?」
そんな三人を他人事のように見つめていたスンユは、寝台に横たわったまま、リュカと同じ優しげな笑みを見せてユウナに問うた。