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吼える月
第24章 残像
そして――。
「だけどまあ、神獣に関わる相手でなくてよかった。もし娘さんの惚れた相手が、神獣の関連者であれば、きっと私は――」
追加で向けられたのは、私怨に留まらない明らかな殺気。
「殺さないといけないからな」
「……っ!?」
あの夜、父を殺したリュカが見せていた眼差しとそっくりで、ユウナは、心臓を直接鷲掴まれたかのような圧のかかった痛みに苦しくなった。
「……ぁ……っ」
言葉が出ずに、呼吸すら満足できずに蹲(うずくま)りそうになったユウナを支え、直接体内に注ぎ込まれたのは暖かな水色の光。
それはユウナの耳にぶらさがっている、サクの耳飾りから放たれたもので、スンユの殺気に乱されたユウナの体内の気の流れを整えていった。
ユウナの首にいる"襟巻き"は微動だにせず、こうしたユウナの異変に感知して発動する仕掛けを、このイタチが事前に施していたことに誰も気づく者はおらず。
ただ……、密やかにユウナに流れた神獣の力によって、ユウナの恐怖心と苦痛を和らげたという事実を知る者はいた。
それはユウナの"襟巻き"に胡乱な眼差しを向けるシバと、不愉快そうに顔を歪めさせてユウナの回復を見ていたスンユだ。
「……娘さんが惚れているのは、神獣に縁ある者?」
抑揚ない声で紡がれたその言葉には、破裂寸前の危殆さを孕んでいた。
ユウナの本能が、彼女の理性に警告する。
玄武の武神将と恋仲だということは、この男に知られることなかれ、と。
それに直感的に従ったユウナは、毅然と答えた。
「いいえ。全く関係ない者よ」
だが、芽生えた恋心は否定したくなかった。
サクへの想いだけは、嘘をつきたくない。
ただ相手をぼかすだけのこと。