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吼える月
第24章 残像
「ほ、惚れ……」
サクを思い出すユウナの声が上擦りひっくり返る。
けたたましく早打つ鼓動。顔をぼっと沸騰させてしまったわかりやすいユウナの反応に、スンユは不快さを示すではなく、逆に愉快そうに言った。
「そこの、やけに娘さんをちらちらと気にしてる青い彼?」
「へ?」
スンユの視線に誘導されるように、傍で見ているイルヒら数人の介抱補助要員の子供達を含めて、全員の視線が一斉に泰然と立つシバに向けられる。
「は、なんでオレ?」
突如向けられた理不尽な矛先に、シバが不機嫌そうに顔を歪ませれば。
「そうよ、なんでシバ!?」
サクへの恋心を自覚したばかりのユウナもその横に立ち、ふたりでスンユを詰る。
「ふぅん? だったら……」
スンユはくすくす笑いながら、強面をさらすギルに視線を移した。
「そこの……猛獣は、まずありえないね」
「あら、意外と話が合う……」
「どういう意味だ、おいこら! なに結託してる!」
「お前が暴れてどうする、ギル!!」
いいようにスンユに転がされた三人を視界に入れて、くすくすと依然愉快そうに笑うスンユが、穏やかな表情から眼差しの温度を下げたのは、刹那のことだった。
「なんだ。"同族"のよしみで、互いへの境遇の憐憫から、愛と錯覚していたのなら、現実を思い知らせようと思ったけれど……」
悪意をちらつかせ、刺々しい響きをみせる言葉――。
"同族"……とは、この輝ける色合いを示唆しているのだと、考え至ったシバもユウナは、途端に警戒したように表情を硬化させた。
スンユの言葉には、どこにも冗談めいた響きはなく、その目に宿る殺伐とした光が、本心から出た言葉であることを証明していた。
防護壁のような無表情な仮面をかぶったシバの隣で、ユウナは、初めて目の当たりにした"光輝く者"への蔑視に、恐怖すら感じ、今まで彼女が差別したことがなくとも、普通はそういう目で見られてしまうことを理解した。