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吼える月
第24章 残像
「どうしてあたしを……」
「どうしてだろうね。君は自分で思っている以上に、人には有名人だからかもしれないよ。とにかくも君は美姫として誉れ高く、黒陵の民の間では密かに君の似顔絵が売られてたと聞くし」
「なんですって!?」
初耳のユウナは、サクの暗躍を知らない。
「そんな髪色になろうとも、美しさは損なわれない」
一瞬、甘くなった瞳を揺らされ、リュカに対して抱いていた甘酸っぱい気持ちを再生されたユウナは、慌てて彼から目をそらしながら、話題を変えた。サクに罪悪感を覚えながら。
「あたしは、利用価値などないわ」
素性が知られているなら、本音でぶつかり、どこか含んだ眼差しを向けてくる意図を引き出してやろう。
「利用するのなら、リュカの妻になった女性に交渉するといい。追い出されたあたしには、なんの力もない」
「あるさ」
スンユが薄く笑う。
「知っているかい? 奴が黒陵の姫として娶ったのは、君にそっくりな女なんだよ、娘さん」
「え?」
ユウナはふと、黒崙で出会って行方がわからず別れてしまった、サクの幼馴染みのユマを思い出す。
他にもまだそっくりな顔をした女性はいるのだろうか。それとも、リュカが婚姻した相手はまさか――。
――嫌です。私は、サク以外と結婚する気はありません。サクを何年でも何十年でも待ち続けます。それは最初から変わらない。
そんな簡単にリュカに乗って夫婦になるなどありえないと思うのに、この心のざわめきはなんだろう。
「娘さんに拘る意味こそが、"奴"の弱点さ」
「意味がわからないわ」
「どうして奴が娘さんそっくりな女と婚姻をしたと思う?」
「あたしが黒陵の祠官の娘だからでしょう」
「どうして、滅ぼした国の娘に拘ると思う?」
「それは……」
わからない。
拘られている自覚もないのだから、逆にリュカと同じ顔を持つ男に訊いてみたくなる。
「拘ったから、あたしではない女と婚姻したなんておかしいわ」
なぜ他の女と婚姻したのか。
それは、女としての矜持でもあった。
しかし――、
「偽者であろうと対外的には娘さんなんだ。娘さんを殺さず、娘さんにそっくりな女を娶った。つまり娶った女が途中娘さんになったとしても、構わないということさ」
スンユが述べたのは、不可解な言葉。