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吼える月
第24章 残像
スンユという男、侮れない――。
少し前までは瀕死だった上に、介抱した者達を道具だと公言して危険な協力を強いるあたり、並大抵の精神の持ち主ではない。
愚直なのか、その逆か。
返答に窮し困惑したような顔をしたユウナの横、くつくつという……、自嘲気に聞こえる笑い声が、次第に大きくなってくる。
「ワケありの青龍の武神将の息子、ワケありの黒陵の姫。素性を知ったからと、俺達を懐柔したつもりか?」
淡々と告げたのはギルだった。
「大体、おかしいだろうが。この【海吾】を限定に考えても、ここに屈強の兵士が勢揃いしているのならまだしも、俺とシバ以外は皆子供。仮に勧誘が俺とシバだけだけだとしたら、俺らふたりの動きだけで、その大それた大義とやらに匹敵するとは考え難い」
確かにそうだとユウナは思う。
今までふたりと接点のないスンユが、ユウナにとっても未知数の真実のシバとギルの力を、どれほど把握しているのかわからないが、それだけで玄武の力を得て黒陵の主となったリュカを抑えられるとは思えない。
しかもリュカには、サクを簡単に抑えた、ゲイという男が傍にいるのだ。さらにこの世からいなくなった者も戦力にしてしまえている。
その情報はスンユの耳には届いていないのか。それとも届いた上で、目の前のふたりの力がそれに相当すると思えているのか。
ゲイやリュカの力を侮っているのか、それともこのふたりを買いかぶりすぎているのか。それとも真実、このふたりの力がそれだけ強いのか。
ユウナは倭陵最強の武神将と呼ばれたハンを思い出す。
真剣に手合わせすれば誰もが逃げ出すほどに、ハンは本当に強かった。ハンが私欲を出せば、国のひとつは潰えていただろうと誰もが噂するほどに。
ハンの目はこのふたりをどう捉えるのだろう。
このふたりの力は、ハンの力に並ぶのか――。