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吼える月
第24章 残像
◇◇◇
「ここまで来て、なんでまた鍵――っ!?」
テオンを肩に乗せたまま、サクが苛立った声を響かせた。
忍び込んだ青龍殿内、多くの大がかりな罠を乗り越えたサク達の目の前には、背にしてきたはずの……この屋敷の始点である大きな入り口たる扉が待ち構えている。
……もう何度も、見慣れた光景がサク達の前に現れる。
幾ら屋敷の深層に向かって、罠を回避しながら走れども、必ず行き着くのは、なぜか振り出し…出発点だった。
さらにその扉、鍵も栓もした覚えもないのに、きっちりと内部から施錠されているのである。
栓にぐるぐると巻き付いた太い鎖と、まるで罪人を捕える監獄につけられるような頑丈な鍵――。
明らかな手作業にて施したそれは、サク達の仕業ではないのならば、屋敷内にいる姿の見えない"誰か"によるものとしか思えない。
サク達が罠回避に走り回った時間はひと刻ばかり。その間にその"誰か"はどう海からあがって、今どこにいるのか。
堂々とこの門を開いて外から入ってきた可能性はあるにしても、扉前、あるいは何周も走らされた…海を映す輝硬石製の床の表面に、滴り落ちた水滴らしき残骸は見当たらなかった。
施錠したのは、床下である海から気配を感じた者ではないのか。
だとすればやはり内部に、それ以外の"誰か"が潜んでおり、そしてサク達同様に施錠により外に出られないのなら、まだ息を潜めて屋敷内にいる可能性が高い。
…テオン曰く、他に出入り口が本当になければ、の話だが。