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吼える月
第24章 残像
「そういうお人好しにこそ、あの堅物で情に脆い青龍の武神将は、鍵を託すだろう。否、託せるのは、世間から秘匿された存在しかいない」
誰もが怪訝な顔をスンユに向ける。
「鍵?」
代表して、ギルが聞いた。
「そう、どんな願いでも叶うという、女神ジョウガの箱を開くもの……といえばわかるかな、……ねぇ娘さん」
ユウナの心臓が途端に大きく跳ねた。
――苦しめ、ユウナ。
烈しい憎しみを向けたのと同じ顔が、あの運命の夜に起きた忌まわしき出来事を抉り出す。
目の前にちらつくのは、憎々しいほどに輝く金と銀。
サクや父の前で白い純潔を散らした、凶々しい金の片割れ。
穢される自分を見て興奮して、自分の口で果てた……あの悍(おぞま)しい感覚がユウナの中で蘇った。幼馴染みとして絶てぬ慕情を乗り越えて。
その銀色と同じ顔が、にたりと笑っていた。
……この男は、リュカの幻ではないのか。
どうしてその場に居合わせていない男が、知っているのか。
激しい動揺に喉が渇ききって、ひりひりと痛み出す。
絞り出した唾すら、奥に落ちていかない。
ああ、この男は――。
ユウナは顔を歪めさせた。
「そしてこれが、青龍の武神将ではなく君達を"道具"にしたい理由だ。……黒陵の姫から玄武の鍵を奪った、あやつが来る前に」
この男は、四神の鍵で開くらしい女神ジョウガの箱で、なにかをするつもりだ。
言わば、リュカやゲイと同じ穴の狢(むじな)。
「青龍の鍵はどこにある? それともお前自身の命が鍵なのか、シバ」
リュカが妻を伴い、蒼陵にくるのは……あの悪夢の続きをしようとしているのか。ひとをひとと思わぬ、あの裏切り行為を肯定するために。
「さあ、言わねば、私の合図で私の屈強な部下が現れる。子供達がいるこの砦に、最新式の輝硬石で出来た武器で乗り込んだら、どうなるかな?
折角武力による威圧ではなく、話し合いで穏便ですまそうとしていた私の申し出に従わずに、君達は私に"真意"を求めた。だからこれは君達に正直に示す、私の"誠実"だ。悪く思わないでくれよ?」
くつくつくつ。
自業自得だとでもいいたげなスンユの嘲るような笑い声を聞きながら、ユウナはそれと同時に、全身から血が引く音を聞いた――。