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吼える月
第24章 残像
「お、おおお、お兄さん。今は確かに役立たずかもしれないけど、僕頑張るから、ね? 唯一この扉の前の場所だけが罠は作動しないことを見つけられただけでも今はよしとしてよ。はぁぁ……、扉が開かない以上は、僕達ここでひからびちゃうのかな。いやいや、後ろ向きはよくない。
なんでこの屋敷、突然こんなになっているの、絶対変だって。はぁぁぁぁ……落ち着こうね、お兄さん。とにかく落ち着いて、突破できる方法を考えよう? 落ち着くんだよ!?」
ばんばんばん、とサクの頭が忙しく叩かれる。
「まずはお前が落ち着け。それに使えないと俺が言ったのは、お前じゃないから。俺はお前を評価しているからな」
「本当……? 僕の元屋敷に招待したくせに、無事に案内できない僕を?」
「お前のせいじゃねぇだろ? それにお前は懸命にやってる。罠だらけの屋敷なら、俺は十分経験済みだから、気にするな。絶対からくりがあるんだから、それを見つけるぞ。この場所が罠が作動しないのなら、恵まれてるじゃねぇか。ものは考えよう」
「お兄さんが肝据わった超人か脳天気な馬鹿かわからないけれど」
「どっちかわかるだろうが!!」
「ここみたいな罠だらけの屋敷って、ありえないよ。しかも捨てられた息子の僕が、父親の住む屋敷の罠に死にそうになりながら今まで住んでいた場所をこうして彷徨(さまよ)っているなんて、なにこの自虐的展開……」
また悄げてしまったようだ。
「父親が自宅で息子に罠を仕掛けるなんてのは、俺にとっちゃ日常茶飯事だったぞ? 別にお前が特別なものじゃねぇと思うが……」
「へ……?」
「まあ屋敷はここより狭い分、ここまで大胆な大きな罠はなかったが、その代わり、自宅を密やかに改装してまで、とてつもなくえげつねぇ罠がたんまりだった。親父が武勲で下賜された名剣名刀まで、罠に使われてるんだぞ?
しかも俺が熱出そうがどんなに怪我してようが、自力で罠を回避して矢継ぎ早に襲う武器の攻撃をかわして脱出出来るまで、倒れても食事はおろか水すら出て来ない。あるのは追撃用の新たな罠と、"ひっかけ"として用意されてる毒の料理。またそれがうまそうなんだよな。朦朧とした意識の中、思わず口に含んでも、部屋に隠された解毒の術を見つけ出さねば、そのまま死ぬだけだ」