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吼える月
第24章 残像
  

「ちょ、ちょっと!! 笑いながら言ってるけど、お兄さん。それ笑えない話だってば」

「そうか? それになんとか脱出できても、次回はもっと苛酷な罠だらけの部屋に、予告なしに放り込まれる。俺、何度死にかけたかな。今となっちゃいい思い出だが」

「い、いい思い出って……っ」


 顔色を変えたテオンの動揺をよそに、サクはひとり笑いながら懐かしい思い出に浸る。


「近年では、武闘会で常勝の倭陵最強の武神将である親父自ら、俺の命獲りに本気で夜襲かけてさ。都度屋敷が半壊してお袋が怒りまくって。それほどの親父の攻撃に比べれば、無傷で逃げ切れているだけ、今は可愛いものさ」

「お、お兄さん…、お父さんと仲悪かったの?」

「いや、悪いというより…うざったいくらい息子にべったりな父親だった。ま、普通だろ」

「……自宅で罠しかけられるの自体、普通の親子関係じゃないから。だけどまぁ、わかった。お兄さんの度胸や危険回避力、運動能力……鍛錬あってのものだと。どんな苦境をも切り抜けられてきたお兄さんは、やっぱり武神将になれるだけの器があるんだね」

「褒められるとなんだか身体がむず痒いけど、……俺の経験値、安心したろ?」

「ちょこっとだけ」


 少しだけ笑い合い、そしてサクは扉を見つめた。


「外からは開かれ、中からは開かずの扉、か――」


 流石は蒼陵国の要である、青龍殿を守る扉。

 なんて無防備だと思っていたサクは、ジウが放置している理由がわかった気がした。内部からは出られない、自信を持つほどの仕掛けがこの青龍殿にはあっただけのこと。

「飛んで火に入る夏の虫……って奴か」


 青龍殿に近づく者にあからさまな攻撃をするのではなく、懐に誘い込んで容赦なく攻撃する。

 まるでジウの戦い方そのものだ。
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