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吼える月
第24章 残像
「燈篭が罠発動の仕掛けではないとするのなら、また考えは振り出しに……」
「違う、僕も燈篭が怪しいと思う。だけど、どう常識的に考えても、物理的な"囲い"として存在する屋敷で、道が長くなったり短くなったり、変化したりするなんてありえないと思うんだ。
もしあるとすれば、入り口の扉に施されたような、"術"の類いでそう見せられているだけの気がするんだ。ただし罠の危険性は本物だろうし、ここを何度も彷徨う分の体力消耗はさせられているようだけれど」
「確かに、屋敷がくねくねと形を変えると言われるよりは、俺達が惑わされる術をかけられていたと考える方がよっぽど現実的だ。だが術……? ここは蒼陵における特殊な者達の棲まう場所で…」
「あ、青龍の力ってこと? お兄さんは、ここで神獣の力を感じる?」
「いいや、全然。けど俺はまだ駆け出しだし……」
「それでも僕も知らなかったシバの素性、力の面から見つけられるだけの感知能力はあるじゃないか。僕はお兄さんが無反応だったことの方を信じる」
不意に断言されて、サクは困ったように照れ笑いをした。
「術以外の可能性として、もうひとつ。僕みたいな神獣とは関係ない力の介在も疑えるとは思うけれど、僕も特殊な力を持つ者の端くれとして、なにか力の波動のようなものは感じない。だとすれば、人為的な力の介在なしで無限回廊化していることになる。
それを燈篭を絡み合わせて考えれば。あの燈篭の灯によって発動されているのは、精神力消耗を防ぐため、対象を特定しないと発揮されにくい個人の特殊な"力"より、誰でも知識と訓練さえあれば、不特定多数に使える…気軽な"術"の方が無難だと思う」
「確かに妥当だな」
「うん。術としてあの燈篭を問題にするのは、一直線上の灯の有無の配列如何というよりは、該当燈篭自体が術発動の符の役割を持つ"媒介"となっているかどうか…から考えれば、幾らか選択肢は減るんじゃないのかな」
「待て待て。30個以上の燈篭の"間違い探し"をする気か、おい。どう見ても同じにしか見えねぇあのたくさんの燈篭から違いを見つけるのだって、十分難易度高いぞ?」
「ん……。だけど、選択肢は30個前後だ。灯のつき方を試していくよりはよほど早く終わる。願わくば、その違いがわかりやすくありますように…だよね」