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吼える月
第24章 残像
「……お兄さん。たかが60個だよ? そんなもの頭の中でいいでしょう」
「はあああ!? お前全部記憶する気か!?」
「勿論。僕、勉強とか覚えるの得意なんだ」
「俺、一番不得手……」
「言われなくてもすぐわかるって。お兄さんは脳だけに筋肉ついてなさそうだもの」
「うるせぇよっ!! 俺の脳の方がお前より若いんだぞ!?」
「若くても機能してないとね~」
サクがなにも言い返せず、悔しさに地団駄を踏んでいる間、テオンが真顔で言った。
「僕の取り柄は勉強好きと記憶力。お兄さんが身体張って頑張っているんだから、僕も頑張るよ」
そして自分の両頬をぱんぱんと手で叩いた後に見せたテオンの顔は、大人びた男の……怜悧さを色濃く出していた。
そうしたテオンの"本気"の変化に知らずして、サクもまた闘いに生きる男独特の鋭い目へと変わり、
「では……行くぞっ!!」
テオンへ合図の直後に走り出した。
サクの足が軽やかに床を蹴り、罠のない安全領域を出た途端――。
「掴まれよ、テオン!! 罠は俺に任せろ。お前は燈篭の文字を見ていろ!!」
「うん!!」
高い位置に仕掛けられたところから、矢の雨がふたりを狙う。
サクは取り出した赤い柄を振り、小気味いい音を鳴らして出て来た7枚の刃を長く伸ばした。それをいつものように固定させずに、柄を横に振れば、しゃきんと連結された音がして、連なる7つの刃は7つの節となり、刃の鞭と化す。
ひと度柄を振れば、7つの節が自在に動いて広範囲で放たれる矢を切り落とす。
意志を持ってうねる刃の生き物の如く、それぞれの刃の返る反動を直感的に計算しながら、剣鞭を操るサクは、矢頭を見せて次の攻撃に備える仕掛けそのものを確実に削ぎ落としていく。
逃げれば終わるという安直な考えを捨てて、面倒でも最初からこうしておけばよかったと、苦笑しながら。