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吼える月
第24章 残像
「一瞬、俺のぶれた視界の中で見えたのは、この術の片鱗。術者の、この術を作る基礎となる古典的な想起の一部だ。
錯綜され、迷宮化した風景。無数に散らばる沢山の門。そこに刻まれている文字は、生、景、杜、驚、傷、休、開、死の8種」
それを受けてテオンが答える。
「活発を示す"生門"、華美を示す"景門"、猜疑心を示す"杜門"、驚愕を示す"驚門"、怪我を示す"傷門"、休息を示"休門"、開放を示す"開門"、停止を示す"死門"…総じて八門、奇門とも呼ばれる。
そして近くに散乱している支石。そこに刻まれている文字もまとめると8種類。天、地、陰、蛇、陳、符、雀、合…正式には、"九天"、"九地"、"太陰"、"騰蛇"、"勾陳"、"直符"、"朱雀"、"六合"……古代文字が栄えた時代より方位を守護すると伝えられてきた八神の名」
サクは頷いて、テオンに続けた。
「これは吉凶を占う方位術を故意的に逆利用した、幻術の一種だ。正しい石がある道の正しい門から出ないと、その門と石の特性が襲いかかり、正しい道を見つけるまで空間を彷徨い続けることになる」
サクの言葉に、テオンが拍手を送った。
「正解だよ、お兄さん。なんだか頭がいい武神将みたいだよ」
「……おい」
「凄いね、お兄さん。これかなり古い秘術のはずだけれど、よく知ってたね。僕は読書好きだから書庫の古い書を読み漁って知ったけれど、知る人ぞ知る…だよ? この方位術……奇門遁甲自体、軍法の基本とも言われているけれど、平和な倭陵ではもう廃れた術だし」
「ガチガチ頭のイタ公の趣味だ。それに俺は、親父からこの八門と八神を使用する術があることを聞いていた」
――いいか、サク。視界を迷宮化させる八門八神の陣の正解は、術者だけが知っている。術者の力に応じてこの陣の迷宮は幾らでも様相を変え、漂浪者を惑わせる。正解の道を見つけない限り、術が解かれるまで、永遠に彷徨い続ける。身体が朽ちてもなお、怨霊として出口を探し続ける羽目になる。