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吼える月
第25章 出現
そして、それは刹那におこった――。
音を立てずして瞬間移動のように間合いを一瞬で踏み越えたジウが、サクの重く思えていた足を払って重心を崩したと同時に、手刀をサクの腹に入れたのだ。素早く三度……。
ジウがいかに戦い慣れた武神将だとはいえ、それに対してサクが抵抗出来ずにただ崩れたままで動けずにいるのは、足払いされた時に手に嵌められた青い手枷のせいだった。これで身体が鉛のように重くなって動けなくなってしまったのだ。意識は明瞭なのに。
「なにを……した!?」
「神獣の力にまだ慣れていない今、他の神獣の力を弾くことができるこの土地で暴れるのはかなり苦だろう…。ある意味、ここに現れたのが、神獣の力を真に使いこなしているハン殿でなかったのが我らの良運。さらに大人しくして貰うために、ちょっとばかり神獣封じの術と、猛獣を捕える枷をつけさせて貰った。命とるものではないから安心するがいい」
猛獣に猛獣と言われたサクは、微妙な顔をしたが、ジウに殺気がないことを悟っていた。狂気も見受けられない。
――いいかサク。全ての動きが塞がれても、必ず動く場所がある。それを見つけて動かすのが、緊縛状況から逃れる唯一の手段だ。
相手に向けて動かせられるのは、口だけだった。
――自分が深刻な状況になっているということを相手に悟らせるな。窮地に陥ったら、笑え。とにかく余裕ぶって饒舌となれ。そしてその間に対策を打ち立てろ。
「ジウ殿……」
地面に崩れ落ちながらも、睨み付ける元気さは失っていないサクの目に、愉快とばかりにジウは笑い、手を伸ばした。
「俺、野郎に担がれる趣味ねぇんですけど……」
「あっはっは。私も担ぐなら、数年で姿をこんなに変えて大きく成長する男は担ぎたくない。まるで苛酷な鍛錬をしているようだ」
「だったら、降ろしてくださいよ」
「降ろしたら、きっと私を担ぐだろう?」
「しませんよ、そんな気持ち悪いこと。そんな自由を奪ったのは誰ですか。それに俺の肩はか弱い人間限定ですので。ジウ殿が口を開けて食らってしまいそうな、そういう者達だけですから」
「はははは。まるでハン殿との会話のようだ。姿も若かりしハン殿にそっくり。いや……、サク殿の方が男前だ」
「ありがとうございます。俺、あんなに軽くねぇですがね」