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吼える月
第25章 出現
軽さを否定しつつ軽口を叩くサクは、ジウの動向を窺っていた。
狂乱したといわれているジウ。狂いは目に現れるというが、残念ながら観察出来るほどの大きさがない。指で穿(ほじく)り返したいほどだ。
口調からすれば、昔以上に饒舌のように思う。ジウはここまで滑らかに言葉を返す男ではなかったはずだ。僅かな焦りも感じたような気がしたサクは、もしやジウの境遇も追いつめられていて、饒舌にすることでそれを隠そうとしているのではないか、と思った。饒舌こそが隠蔽の策だと。
ジウは元々ハンを友人というより手本のように尊敬していたフシがある。だからハンの主義を聞き出して、自ら律儀に実行している可能性は高い。いわばサクの兄弟弟子のようなものだ。
――いいか、サク。生真面目な奴ほど、忠言に固執しすぎて応用が利かなくなる。逆に言えば札を読まれれば、一巻の終わり。
ジウは融通の利かない生真面目な男だ。だとすれば、その手札がハンの教えの中のどれかにあるのだとすれば、頭が悪い自分にも活路を見いだせるかも知れないとサクは思った。
手合わせできたら身体で悟れるものがあるが、それが敵わぬ今、ハンの主義を逆手にとって、頭で心を読むことも可能……になれるはずだ。
ジウの魂胆がどうであれ、会いたい相手が自ら乗り出してきたのは、探す手間が省けたということだし、なにより殺気がないのなら話し合いの場につける環境にあるのが幸い。ジウが狂っていなければ、闘いたくないのが本心なのだから。