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吼える月
第25章 出現
「俺とて怪しい輩のひとり。だが身元証明に、ジウ殿がいる。それに力を奪われていては、今の俺は熱に浮かされた病人みたいなものだ。俺は待ち望まれていたジウ殿の盟友ではなく、その息子だが親父の意志は受け継いでいると思っている。親父ならテオンにこういうだろう。
"どんな馬鹿な息子でも、父親にとっては可愛いものだ"と。そうだろ、祠官。あんたが愛国心のために愛情を隠したために、テオンがどれだけ泣いてくらしていたかわかるか!? いまだめそめそして仲間からいじめられているんだぞ?」
それに、焦ったように反応したのはジウだった。
「そんなはずはっ、報告では……」
「報告?」
「っ!!! 違う、これは……」
ジウの反応に、サクはひとつの仮説をたてた。
「お兄さん、僕がいじめられているように見えてたの?」
「こういうのはな、大袈裟に言っておけば、真実が見えてくるもんよ」
「は?」
「なぁ、祠官がテオンを本当に嫌っているのなら、まずジウ殿がテオンをここまで呼び寄せないだろ。病人に嫌いなものを見せることはしねぇだろうよ、それでは寿命を縮ますだけだ。だがジウ殿はなんて言ってお前を連れた?」
――テオン様、お父上もお待ちになられております。
「ジウ!」
「申し訳ありませぬ」
祠官がジウに叱咤しているのを見れば、"やはり"ジウは人情を忘れた男ではないのだろう。ジウはわかっているはずだ。だから引合わせたのだ。祠官がテオンに会いたがっていることを。……もう長くないことを思えばこそ。
テオンは嫌われたわけではなく、嫌われたフリを信じ込まされていただけだ。父親の愛情を誤解して生きるなんて残酷だ。だからこそサクは思うのだ。本当は暴かれずにすんだ方がいいことかもしれないことを、あえて口にする。
証拠を並べて追いつめねば、祠官もジウもテオンへの愛情を認めようとしないのならば。
「もしテオンが、病気のために神獣に認められず次期祠官になれないからという理由で、彼を子供として愛していないというのなら、なぜ【海吾】に面倒を見させていたのか、説明して欲しい」