この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
吼える月
第25章 出現
ジウは目を見開いたまま、祠官は目を伏せて動きを止めていた。
ぴくりとも動きのないふたりからは、サクの畳みかけるような口撃が有効だったどうか、目で見る限りはよくわからない。
だからサクは目を瞑ってみる。
――サク、目だけに頼るな。お前についているのは目だけではないはずだろ? あやふやなものから真実を知りたいのなら、その他の五感を頼れ。
そして、細く息を吐き出しながら、耳に意識を集中させた。
彼の耳は捕らえる。
テオン以上に乱れた呼吸を隠そうと、恐怖場面に遭遇しているかのように上擦った息をする、青龍の祠官と武神将のものを。
だからそれを証拠に、サクは開いた目に不敵な光をたたえて、ふたりに訊くのだ。
「反論は?」
やがて祠官がも目を瞑ったままで答えた。
「貴公――、いつその結論に行き着いた?」
サクは、予想外の質問に数度瞬きをしてから、頭をがしがしと掻いて苦笑した。
「今」
「……今?」
ジウが声をかけるのと、祠官が目を開くのが同時だった。
「俺……、熟考不得手で、直感型人間なんで……。きっとジウ殿は、親父が学習能力がないとため息ついていたの、御存知だと思いますが」
ジウの…、なにか哀れんだ視線を受けながら、サクは笑った。
「熟考するから多分、ジウ殿の豹変の意味を"気狂い"と結論するんでしょうね。だが俺は生憎、熟考型ではないんで、ジウ殿が本当に狂っているのか、そこばかりが気になりまして」
そして笑みを消してジウを見つめる。
「ジウ殿が本当に狂ったというのなら、ジウ殿に頼れと俺に言った親父の目が節穴だということになりますから。ジウ殿の人柄をよく知る親父は、最強の称号を得てしても、盟友の豹変すら見抜けなかったということ」