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吼える月
第25章 出現
 

 祠官は窪んだ目でじっとサクを見ていたが、やがてジウに言った。



「……ジウ。サク殿の枷を解いてやれ」

「御意」


 ジウがサクの手枷に手を翳すと、ぱりんと枷が割れた。


「これは輝硬石か?」

「左様。蒼陵特製のものだ……」


 サクは自由になった手首をぶんぶんと振った。

 力が入らなかった指先にも力が戻った感覚がある。



「私達の苦肉の策も、サク殿の直感には敵わぬとはな……。先制とばかりにその直感で、こうも強固に組み立てられてしまえば、どんなにジウと事前に打ち合わせしていたところで、時間の無駄になったようだ。なによりジウが、色々とサク殿に訴えるほどに懐柔されていたとは。…ハン殿が逝かれたことは確かに衝撃」

「も、申し訳……」

「いやジウを詰っているわけではない。お前の目は節穴ではなきこと、私はわかっておる。だから、なるほどと思った。さすがはジウが、最終的に一縷の望みをかけていたハン殿の血をひくと。ここまで、なにを言わずとも看破されるとは。私達が知恵を振り絞ったものは、この場の直感に敵わぬとは。ああ、予定が狂ってしもうた」

 祠官のぼやきこそが、サクの直感が正しかったことの証明となる。祠官は出ばなを挫かれ悔しそうではあるが、それを引きずり固執するほど、暴君的な老醜は見せなかった。……元々そこまでの余裕や時間がないのか。


「妙を得ているから真実を語るのではない。サク殿の……、ハン殿に対する愛情と、そしてハン殿がサク殿に注がれていた愛情ゆえに、テオンを信じるサク殿を信じて、私は真実を語るとしよう……」


 それまで無表情だった祠官の顔が僅かに和らぎ、



「……テオン、父を許してくれ……」


 その顔をテオンに向けた。

 そしてサクを見て頭を下げた。


「サク殿。我が不肖の子を信じ、そしてここまで無事に連れてきてくれたこと、深く感謝する」


 上げられた顔、それは――、



「どんな境遇にあっても、私にとっては、命に替えても守りたい……愛おしい子供なのだ」


 氷解した父親の持つものであった。

 
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