この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
吼える月
第25章 出現
「あの……、俺、おかしいことを言いました?」
「い、いや……。その……若かりしハン殿がよく、"そこは、さすがは最強の武神将だなって褒め称えるところだろうよ!!"と私に言っていたことを思い出し……。し、失礼……がははははは」
ジウはハンの話になると、表情が豊かになるらしい。
それだけの仲だったのだろう。お互いが協力を願うほどには。
「サク殿は……テオンが身形より年上だということを知っているのか」
その笑いを遮る様な冷ややかな声は、祠官からのものだった。
「ああ」
「テオンが神獣のものではない、他の力を持つことは?」
「知っている」
「気持ち悪いとか思わぬのか」
「なんで気持ち悪い? そんな"上っ面"な部分より、俺はテオンが独学で培ってきた知識の豊富さと頭のよさを重宝する。口は悪いのが難点だけどな、年上のくせに」
テオンがなにかを言いかけ口を開こうとしていたが、諦めたようだ。
「なぜそこまでテオンを信じる。ハン殿とジウのように、旧知の仲でもなかろう。それにサク殿は玄武を祀る国の出身。青龍の祠官の子供を、なにゆえにそこまで信じる?」
サクは笑ってテオンをちらりと横目で見た後、顔を祠官に向けた。
「テオンが祠官に捨てられてもまだ、祠官を愛し続けているから。どんな状況であっても親を信じられるその強さに、俺は共鳴したからだ」
「愛ゆえに、というのか」
「そう。だからこそ、あなたの愛は生き続けていると思った。親子というのは、どんなに離れていても、生死関わらず切れぬ絆がある。それを信じればこそ、テオンが感じている…、"誤解"を解きたかった。神獣が認めないという身体的理由や特殊な力を理由として、実の親が子供を嫌悪して追い出すのは、ありえないのだと。
……むしろ、そうして世間より追い立てられたような我が子が不憫だと、より一層愛情を注ぎ守るものだと。俺の親父のように、その身を犠牲にしながら。
……俺はそれこそが真なる父親の姿なのだと、信じたいから」