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吼える月
第26章 接近
今まで、口以外は面白いほどに全身の力が入らなかったサクだったが、元凶となる手枷を取られた途端に力が戻り、そして同時に目の前のジウと祠官もからまた、神獣の力を感じることが出来た。
ただ――。
正直、ハンの次に強い武神将で、武闘大会であんなに派手な技を繰り広げていたジウのことだから、もっとすごい神獣の力を感じると思っていたサクは、半ば拍子抜けした気分であった。
祠官に至っては、体調不良のせいなのか、力が潜在的にあることすら無自覚のシバほどの力も感じない。
もしかして、新米武神将を惑わす神獣封じ系の術がこの部屋に施されていて、それで実力のほどを推し量れないだけかもしれない。
なんといっても、青く輝く……牢のような密室は、まともな部屋だとは言い切れない。なにを目的にこんな異質に作られたのかわからないのだから。
「事の発端は、テオンが月毒症に罹患した時だ……」
ゆっくりとした祠官の声が響き渡る。
隠してはいるようだが、祠官の呼吸が乱れている。
テオンの話では心臓を患っているのだから、少し休ませた方がいいのではないかと、ジウに目配せをしたが、ジウは小さく頭を横に振る。
体調不良を押しても、話したい……元から祠官にはそんな強い意志があったのだろう。
おそらく、命の引き替えとしてもいいほどの。
それはきっと、テオンへの愛情ゆえに。
だから話を遮ってはいけない気がした。
最期の言葉を聞けない子供は不幸だと思うから。
長かった誤解が解ける今、そして多分、父の覚悟はテオンも感じている。
だから膝の上に乗せる両拳が震えているのだ。