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吼える月
第26章 接近

祠官はゆっくりと言った。
「月毒症とは、テオンの成長を止め、そして幻覚の力を与えた奇病だ。サク殿の国に、月毒症という病は?」
「いや。テオンから初めて聞いた」
「そうか。これは蒼陵でちらほらと見られていた奇病で、罹患者には赤い月の痣を出して猛毒を飲んだように苦しむところから、仮に名付けられた病名だ。季節や大人子供まるで関係なく、発症したらその殆どが絶叫しながら苦しんで死に絶える恐ろしい病気だ。青龍殿では他に発症者はおらず、テオンがなぜそれにかかったのは、依然不明……」
「黒陵はそんな病気聞いたことなかったが、もしかして白陵や緋陵には……」
「ないという報告だ」
ジウのこの物言いは、恐らくギルからもたらされたものだろう。
【海吾】は子供達を生かす為に、窃盗行為をさせてはいるが、誰にも構わずではなく、奪ってもいい人種を見定め、それによって子供達は生きながらえている。
だからといって、盗むという行為が褒められる行為ではないということは、サクは十分ハンから教えられてきたが、そうでもしなければ生きられない実情があるのなら、子供を責めるよりもそうしてしまった大人を責めるべきだろう。
子供に窃盗行為をさせた、その元凶の大人は目の前にいる。
そしてその大人の指示で、子供達を養う別の大人は、庇護した子供達を使って各国を偵察をさせて、その元凶に伝えているという現況――、この国での一番の功労者は、理不尽に"捨てられた"子供達だというこの皮肉。
国としては、やはりなにかがおかしい。
どこから糸が縺れてきたのか……。
「それだけの病気なら、なんで国の緊急事態だと声をあげなかったんだ? 他国の力を借りて解決出来る病気かも知れねぇし、中央皇主の元には、倭陵一・二を争う御典医もいるはずだ。なにか知恵が……」

