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吼える月
第26章 接近

祠官が苦笑しながら答えた。
「サク殿。昔から倭陵の民は、説明つかない不吉なことが起ると、すべて"光輝く者"達のせいにする悪い風潮がある。なにかのせいにして、自分達は悪くないという免罪符を手に入れた気分になる。
テオンが月毒症にかかった頃、まだ"光輝く者"の一斉弾圧……遮煌が行われる前で、それでなくとも異質な姿の彼らは、どこの国でも差別されて肩身狭い暮らしをしていた。
もしもここで不可思議な病気を騒げば、まずは不吉な予言を怖れる中央が黙ってはいないだろう。だからハン殿にも話せなかった。ハン殿の人柄を疑ったわけではない。国外に持ち出すことの危険性を怖れたのだ」
「しかし、苦しんでいる病人が出ているんだろ? そんな悠長なこと……」
「……サク殿。それから少し後で、蒼陵と黒陵の丁度境界あたりに、突然目映い光が点滅していたことがあった。そこでハン殿とジウがそこを偵察に行ったが、なにもなく光も消えた。それを聞いた皇主はどうしたと思う?」
祠官に代わって、ジウが答えた。
「我ら武神将に、遮煌を断行せよと命じた」
ジウはサクの目を見ない。
それはハン同様に、武神将として遮煌を行ったことに悔いがあるためか、それともシバという息子を思うゆえか。
両者であって欲しいとサクは願う。
シバのことを聞きたいが、この"光輝く者"の話には、ジウ個人への質問を許さないようなジウの気概が見え、今はその時ではないことを直感的に悟る。
「光程度で、皇主はジウら武神将を動かしそこまでのことを命じた。ならば月毒症のことを知ったら、皇主はどうすると思うか、サク殿」
祠官のまっすぐな視線を感じて、サクは静かに答える。
「……月毒症は"光輝く者"達のせいだと思うだろうな。"光輝く者"達だけではなく、月毒症患者を殺すかも知れねぇ。なにせ原因も病気自体もよくわかっていないのであれば」
祠官は軽く頷いた。

