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吼える月
第26章 接近

「……と待て。その女は祠官になにを要求したんだ?」
「浮石の開発を」
祠官は淡々と言った。
「浮石って……、今海の上に浮いて街になっているという、あのぷかぷか動く浮島の素材のことか?」
「そうだ」
「……まさか、だからここが水没した時に、浮石を民に提供できたと!?」
「その通り」
つまり――。
その怪しい女の出現で、蒼陵の民は水没から助かり、テオンも治った――そういうことなのだろうか。
酷く出来過ぎな事象。
それは本当に女神ジョウガ本人もしくは、それの関係者であれば……可能になると?
サクは目を細めた。
代償を求めたことが、ひっかかった。
「違うな」
「サク殿?」
祠官が不思議そうな声を出す。
「その女が言ったのは、浮石のことだけではなかったんだろう?」
サクが鋭い視線を祠官に送ると、祠官はびくりと反応した。
「浮石が予言云々の"言う通り"なら、その女が求めた、テオンを助けるために必要だった代償とはなんだ?
その代償があってテオンはよくなった。だったらテオン。お前が目覚めたとき、なくなっていたものはなんだ?」
テオンは少し考えながら、はっとしたような顔で祠官を見る。
「母様……。ねぇ、母様が僕を心配するあまりに衰弱死してしまったという母様は、本当は!?」

