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甘く、深く、繋がって
第25章 始まりの夜
「いらっしゃいませ」
澄ました顔で頭を下げられて
「チェックインをお願いします」
同じく他人行儀に返す。
「こちらにお名前と連絡先のご記入をお願いします」
千太郎しかフロントにいないとはいえ、一応は従業員と客だ。

二泊の予定を一泊に変更してもらい、謝罪して宿泊手続きを進めていると
「何、拓に初めて部屋を頼まれたと思ったら彼女のためかよ?」
俺の書く字を目で追いながら千太郎が話し掛けてきた。
「……」
肯定も否定もせずに同行者欄に真純の名前だけを記す。
「あれっ、マスミちゃん、なの?」
からかうような口調にムッとする。
「……あぁ」
冷たく言ったにも拘らず千太郎が笑ったのが気配で伝わってきた。
「何、もしかして本人?」
「……本人」
「へぇ」
途端に相槌が柔かくなる。
「……よく見つかったね」
続く口調は温かい。
周りに大切にされている真純を微笑ましく思っていたが、どうやら俺の周りも同じらしい。
「偶然、ね」
短く返し、同時に脳裏に浮かんだ佐伯さんや桐生さんの笑顔。
ソワソワと擽ったい感じが落ち着かない。でも、嫌じゃない。
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