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第29章 ・・・のために

「騙されてるんだって！どうして分からないの！？」
みゆきさんの言葉が胸に突き刺さった。
「声が大きい」
対する黒田さんの声は変わらず落ち着いていて。それも私の胸を苦しくする。

あんな別れ方した、のに……

後ろから見上げた拓真さんの表情は分からない。でも、苛々してるのは緊張した背中から、強く握られた手から伝わってくる。

みゆきさんが怒ってるのは私に、だ。私が事件を招くような人、だから……
好きな人がそんな人と一緒にいて平気な訳ない。

過去の私をなくす事は出来ない。でもそれをどんなに非難されても、拓真さんを好きな気持ちは譲れない。ブレるなんて、ない。
納得してもらえなくても良い。
でも、私が真剣な事は分かってもらいたい。
じゃないと、みゆきさんは拓真さんを想って憤り、苦しみ続けてしまう気がするから。黒田さんにみゆきさんと会う度、苦い思いをさせてしまうから。
それに……このまま別れたら、拓真さんはこの事をずっと胸に抱える事になってしまう。何よりもそれが嫌、だから……

「あ、の……」
自然と声が出ていた。