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五十嵐さくらの憂鬱。
第9章 …9
「はぁ…」

ため息を吐きながら掲示板を見ていると
突如後ろから脇腹をくすぐられて
ぎゃあ、という悲鳴とともに
さくらはのたうちまわる。

「ちょ、やめてよばか!」

その手をつねると
「いってぇ!」
と馬鹿でかい声。

「つねることないだろーが!」
「いきなりうしろからくすぐることないでしょ!」

ポカポカたたくと
大男翔平はゲラゲラとわらった。

「もーぅ…」
「もーぅ、じゃねーだろ。
彼氏と別れたんだって?」

小春情報をいち早くゲットしたのか
翔平はさくらを覗き込んだ。

「なのに、なに浮かない顔してんだよ。
新しい彼氏もできたんだろ…誰か知らんけど」

そこはさすが小春。
言わないでほしいことはきちんと言わない。
クールビューティーな小春にさくらは感謝した。

「誰なんだよ、新しい彼氏」
「…稲田先輩…」

はあ?という翔平の声は、おそらく反対側の校舎にまで聞こえたに違いない。
校舎の壁に反響して
こだまになってはあ?が帰ってきて
さくらはあわてて「しー!」と指を口に持ってきた。

「おま、それ!」
「翔平、静かに!うるさい!
ちょっと場所移動!」

さくらは自分より相当でっかい翔平を引っ張って
(側から見ればきっと、子どもが暴れるサラブレッドを引っ張る姿と完全に一致したに違いない)
あまりひと気のない駐輪場まで連れ込んだ。

「ここなら、翔平の拡声器よりでかい声でも大丈夫ね」

安心したのもつかの間
どてかい「なんでだよ!」に耳を塞いだ。

「なんでもって…言われても…」
「聞いてないぞ!」
「言ってないもん」

言い合いになりそうなのをやめて、
どうどう、と翔平を落ち着かせる。

「つきあうことになったの、いろいろあって。
優しいし、いつも助けてくれるし
本当に頼れるの」

植え込みに腰掛けてさくらの話をおとなしく翔平は聞いた。

「そんななら、早く別れちまえばよかったのに…」

光輝の話に
翔平までも眉を寄せて酸っぱい顔をした。

「いいの。おかげで、もっといい人に出会えたんだし」

そうか、と翔平は相槌をうつ。

「でも…」
「でも?」

翔平はさくらを見た。

「でもぉ!? なんだよ、すこぶるいい話で
最上級ののろけの後の言葉が
でもっつーのはおかしいだろが!」
「落ち着いて、翔平、もう!」

さくらは深呼吸すると
うん、とうなづいた。
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