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五十嵐さくらの憂鬱。
第19章 …19
しばらくぼうっと立っていたのだが
右手のほうからひときわ歓声が聞こえて
そちらを何の気なしに見ると
樹の姿が見えた。
花束を抱えた大勢の女子たちに囲まれて
かなり迷惑そうな顔をしている。
その女子たちに、細やかかつ、
丁寧に夏月が対応している。
その姿に、思わずさくらが微笑んだとき
樹と目があった。
―――AVルーム―――
樹がさくらだけに聞こえるようにそうつぶやいた。
「樹先輩、また来年からもお願いします!」
「先輩、私も同じゼミに入りたいです!」
そんな声が聞こえて
さくらが眉根を寄せて振り返ると
樹はその後輩たちに冷ややかな視線を向けながらも
さくらに気づいて一瞬だけ口の端を持ち上げた。
その冷徹かつ残忍な笑みに
さくらは外の寒さだけではない寒気を感じ
逃げるようにその場を離れて
AVルームへと逃げ込んだ。
部屋の中はほんのりと暖かくて
外の寒さに比べるとだいぶましなのだが
しかし、人っ子一人いない空間は物静かで居心地が悪い。
そんな薄暗い部屋の中で
さくらは樹を待った。
15分ほどたって
廊下から足音が聞こえてきたかと思うと
部屋の前でぴたりと止まる。
その一拍後にドアが開けられて
そして、樹がゆっくりと入ってきた。
「さくら、待った?」
その優しい声に
さくらは安堵する。
「そんなには」
ならよかった。
そう言ってすぐにさくらの唇をふさぐ。
樹の冷えた鼻が当たって
さくらの眠気が一瞬で吹き飛んだ。
樹がまとってきた冷たい空気が
しなやかにさくらにも絡みつく。
舌から伝わる体温だけが
この世のものとは思えないくらいに
温かくてやわらかく、幸せに満ちていた。
「さくら、抜いたな?」
樹が唇を離すなり、そう呟く。
さしずめ、ポケットの中だろ?
そう言われて、さくらは顔を赤くしてうつむいた。
右手のほうからひときわ歓声が聞こえて
そちらを何の気なしに見ると
樹の姿が見えた。
花束を抱えた大勢の女子たちに囲まれて
かなり迷惑そうな顔をしている。
その女子たちに、細やかかつ、
丁寧に夏月が対応している。
その姿に、思わずさくらが微笑んだとき
樹と目があった。
―――AVルーム―――
樹がさくらだけに聞こえるようにそうつぶやいた。
「樹先輩、また来年からもお願いします!」
「先輩、私も同じゼミに入りたいです!」
そんな声が聞こえて
さくらが眉根を寄せて振り返ると
樹はその後輩たちに冷ややかな視線を向けながらも
さくらに気づいて一瞬だけ口の端を持ち上げた。
その冷徹かつ残忍な笑みに
さくらは外の寒さだけではない寒気を感じ
逃げるようにその場を離れて
AVルームへと逃げ込んだ。
部屋の中はほんのりと暖かくて
外の寒さに比べるとだいぶましなのだが
しかし、人っ子一人いない空間は物静かで居心地が悪い。
そんな薄暗い部屋の中で
さくらは樹を待った。
15分ほどたって
廊下から足音が聞こえてきたかと思うと
部屋の前でぴたりと止まる。
その一拍後にドアが開けられて
そして、樹がゆっくりと入ってきた。
「さくら、待った?」
その優しい声に
さくらは安堵する。
「そんなには」
ならよかった。
そう言ってすぐにさくらの唇をふさぐ。
樹の冷えた鼻が当たって
さくらの眠気が一瞬で吹き飛んだ。
樹がまとってきた冷たい空気が
しなやかにさくらにも絡みつく。
舌から伝わる体温だけが
この世のものとは思えないくらいに
温かくてやわらかく、幸せに満ちていた。
「さくら、抜いたな?」
樹が唇を離すなり、そう呟く。
さしずめ、ポケットの中だろ?
そう言われて、さくらは顔を赤くしてうつむいた。