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片想いの行方
第60章 裏HERO
「……一条さん!」
私の声で彼は立ち止まり、ゆっくりと振り返った。
「……美和……」
両手に荷物を持って、くたびれたコートを着ている。
顔色は悪く、その目元には酷いクマが浮かんでいた。
いつでも自身たっぷりで、傲慢な態度だった頃と比べると、考えられないくらい寂しい姿だった。
「……なんだ、気付かれる前に去ろうと思ったのに。
わざわざ俺をあざ笑いに来たのか?」
一条さんは小さく笑う。
「これでも、会社の重役として色々と引き継ぎがあってね。
事務処理も必要で、たった今退職届が受理されたところだ」
「…………」
私が何も言わずにその言葉を聞いていると
一条さんは深い溜息をついた。
「そんな警戒しなくても、もう何もしないよ。
というより、できないってことがお前も充分知ってるだろう」
「…………!」
「俺にとって、こんな会社はどうでもいいが。
鈴木蓮という男の力によって、俺の一族は致命傷を負ったんだ。
……若造のくせに、恐ろしい奴だよ」
一条さんは荷物を持ち直すと、思い出すように外に目をやる。
「……来年、次のお仕事は……?」
「年明けに日本を出る。
灼熱の太陽の下、サンバでも踊って女と楽しむさ。
……二度とお目にかかれない、地球の裏側だ。
安心しろ」