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異常性愛
第12章 独裁者の嘆き
それは権威をまとった権力だった。
権力の最大の武器は暴力だ。
広島に悲劇をもたらしたのも、幼い私を支配したのも、権力者の振るう暴力だった。
権力は自己防衛のために暴力で壁を作り、形を変えず脈々と時を重ねる。
権力は理解を求めてはいない。
それらが強制するのは服従だ。
亭主が言うように、逆らえば殺される。
現代では社会的な抹殺だ。
つまり、そのコミュニティでの立場を奪われることになる。
服従する以外に選択肢の無い環境は、人の思考を止める。
そして支配者が提供する娯楽に誤魔化され、抗う気力を失っていく。
理不尽な強制を無意識下にそっと埋め込み、『自由』という錯覚を起こさせる。
権力は見えない鎖を張り巡らせ、壮大な服従の数珠繋ぎを作る。
それを人は常識と呼び、便利に使う。
私を長らく苦しめ悩ませてきたことに、亭主はひとつの答えを見せた。
彼とてその鎖に縛られているのだ。
だが彼はそれに乗っかり、巧みに操り自由に生きる。
私が少し彼に傾倒したのは、常識に縛られないその自由な感覚だ。
妻を他人に抱かせ、自らもそれを楽しみ、他人をも巻き込んで自由を共有する。
常識ではタブーとされることを、平気で乗り越えて楽しみ、道徳やルールをないがしろにする彼に、周囲が権力を与えたのだった。
だから彼は、私があらゆるものに固執し、常識を通してしか物を見ないことを嘆いたのだ。