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加虐の皇子と愛玩ドール
第1章 公開遊戯
十二月も後半に差しかかった、第三週目の金曜日の夜だ。
塙岸みおり(はなぎしみおり)は、市内の某所にひっそりとある、一軒のバーを訪ねていた。
『レズビアンバー Gemini』
こうして表札がかかっていなければ、誰もが気付かないで通り過ぎていこうほど、それは小さな店である。
みおりは、カントリー調の木製の扉を押して、勝手知ったる店の中へ入っていった。
営業開始時間前の店内は、静かだ。
みおりは昼間、ここ『Gemini』の経営者にして店舗責任者でもある友人から、いきなりメールを寄越された。
話がある。必ず開店時間の二時間前に、店に来てくれ。
それがメールの内容だった。
みおりは、カウンターに並んだ回転椅子の一つにバッグを下ろす。羽織ってきたコートを脱いで、そこに重ねた。
エアコンの生温かい風が吹いていた。
カウンターの側の壁に、鏡が立てかけてあった。
鏡は、このあちこちに観葉植物が置いてあるジャングルの如く空間を映し出して、店を二倍の広さに見せていた。
紛い物のスペースの中に、みおり自身の姿もあった。
ホワイトブロンドの短髪に、ダークカラーの皇子服、グレーのコンタクトをした双眸は、奥二重で切れ長の目許にミステリアスな色を添えている。生粋の日本人で正真正銘の女、にも関わらず、自分の姿をこうして見ていると、屡々、異国のホストに喩えられるのも頷ける。
天井から降り注いでくる豆電球の星の光が、黒い大理石のフロアに、きらきら反射していた。