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加虐の皇子と愛玩ドール
第1章 公開遊戯

 ややあって、みおりは一つの違和感に気が付く。

 呼び出してきた張本人が、いない。

 みおりは脱いだばかりのコートを引っ張り上げて、ポケットから携帯電話を引き抜く。

 『Gemini』の店舗責任者、もとい宍倉雅音(ししくら まさね)という名の女性の電話番号を、アドレス帳から探し始める。

 その時だ。

「…──っ」
  
 どこからか、息を殺す気配がした。

 みおりは、引き寄せられるようにして、観葉植物に隠れた死角に目を留めた。

 高い背凭れの並んだソファとソファの間を縫っていって、狭い通路の向こう側、それまで見えなかった一角を覗き込む。

「…──!!」

 みおりは目を疑った。

 先週末までごく普通のバーの風景だったその一角が、がらりと姿を変えていたのだ。

「あ……ああ……」

 手術台を彷彿とする鉄製の寝台が、壁際の真ん中に備わっていた。その上で、少女が一人、首輪に繋がれて膝を抱えていた。

 少女は、みおりに背中を向けていた。

 半分透けたテディの他に、何も身に着けていない。少女の柔らかそうな背中は剥き出しで、白いヒップも、フリルの間からほぼ丸出しだ。
 素肌は、絹の如く白い。その肢体は妙なる曲線を描いていて、腰にまで伸びた栗色の髪は、本当に人間のそれなのかと疑いたくなるほどさらさらだ。

「おねえ、ちゃん……?」

 しとやかなソプラノの声が震えていた。

 小さな肩が強ばって、ほんのり紅潮しているようにも見える。

「君は、誰?」

「…──!!」

 みおりは、鉄の寝台へ歩いていく。

 少女がちらと振り向いた。

 瞬間、みおりはその両肩をひしと掴んだ。

「あっ……」

 少女の身体を、無理矢理、振り返らせる。

 案の定、しどけない夜の下着は、少女の乳首を露わにしていた。細い首を繋いだ首輪の鎖の端は、寝台を支える四つの柱の内一つに結んであった。

 みおりは、いっそう大きく開いた大きな瞳に、無言で見上げていた。

 すごい美人だ。

 ともすればドールに見紛おうほど、謎の少女は端正のとれた顔立ちをしていた。
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