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加虐の皇子と愛玩ドール
第5章 公認遊戯
「お母さんも、がさつな殿方なんて選ばないで、女性とお付き合いすれば良かったかしら。そうしたら、お部屋だって綺麗に保ってくれたでしょうし、水仕事だって交代で」
「小松さん、わしは頑張っているじゃないか」
「一昨日お皿を割ったのは、どこの誰?あんなことになるのなら、頑張らないでもらった方が、ましでした」
「それは酷いよ小松さんー……」
「──……」
「おっ、ビールが切れたな。雅音、お代わり」
「もうないわ」
「バーの店主が酒をストックしていないだと?」
「ここ、店じゃないし」
「雅音、ワインで良いわ」
「ワインもない。ほづみの淹れてくれたお茶、飲みなさいよ。全然減っていないじゃない」
「…………」
小松と嗣朗が、湯気のなくなったティーカップを、ちびちび啜り始める。
それからみおりは、ほどなくして、ほづみとコンビニエンスストアへ行かされることとなった。
* * * * * * *
冬の星座が微弱に瞬く夜空の下、閑散とした住宅街を出てすぐのところに明るく映えるコンビニエンスストアで、ビールとワイン、ナッツを買った。
そうしてみおりは、ほづみが買い物リストをダストボックスに投げ捨てると、帰路に引き返していった。
みおりはサイズに比較して重量のあるレジ袋を片手に提げて、空いた腕に、ほづみのふんわりした温度を感じていた。
「ほづみ、平気?」
「何がですか?」
「薬」
「…………」
ええっと……、とたゆたう、心の声が聞こえた気がした。
ただし、ほづみの足どりはしっかりしている。もとより小松も嗣朗もほろ酔いだ。
この分なら、今夜くらいはあの品行方正な両親の前で、ほづみの被虐体質は隠せるだろう。
「料理、しよっかな」
「みおりさん、……疲れてます?」
「別に。この前は頭に血が上っていたけど、冷静になったら、やっぱ家庭の味って良いなって」
「──……」
みおりの脳裏に、あの花会の父親ではなく、嗣朗のおどけた声が蘇る。
ほづみの味覚は、小学生の頃から変わっていまい。たまに外食に出かけると、ほづみは、やはりピッツアをオーダーしていることがあるからだ。
みおりに小松と嗣朗の将来設計図に乗っかる気は毛頭ないが、このまま台所恐怖症に打ち克てないで、愛玩ドールのニーズに応えられなくては、所有者としてプライドに障る。