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理想と偽装の向こう側
第12章 板ばさみ
カチカチカチ…


時計の秒針が、妙に部屋中に響いて聞こえる。


あれからベッドに入ったが中々寝付けず、気づけば深夜2時くらいになっていた。


私は仰向けのまま両手を広げ天井に向かって伸ばし、薄暗がりに影になる掌を見詰める。


小田切さんが握った、右手。
嘉之が重ねた、左手。


「はぁ~」


心が左右から引っ張られてる気分になる…
てか、している自分がいるから仕方ない。


その両手で眼を塞ぎ、頭を抱える…。


「はぁ…どうなっていくんだろう…。」


小田切さんには、まだ告白する勇気はない。
嘉之を振り切る度胸が足りない…。

だからって、嘉之を無視してたら、どんなことやらかすか分からない…
それこそ気付いたらイタリアでした!
ってことも有り得る!


『香織なら待っててくれると思ったからさ…』


嘉之の言葉が、何度も繰り返され罪悪感に襲われる…。


私が、辛抱して嘉之を待ってたら良かったのかな…。


でも、待てる自信なんてなかった。


嘉之が求めてるのは『自分を愛してくれる人』であって…

『渡辺香織』じゃないから…。

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