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《番犬》が女に戻るとき...
第23章 夢を語る瞳
ハルクは自分を落ち着かせようと深く息を吐いた後、梗子から手を離した。
そして右手にある本の表紙を見る。
「西洋建築史?」
「──…え?あ…うん」
焦げ茶のハードカバーに、金色の文字で題名が書かれていた。
ギリシア建築から始まり、ローマ、ロマネスクにゴシック、ルネサンス…と続いている。
「…こんなの読んで、楽しいの?」
ぎっしりの文字と時々の写真。それらに目を通しながらハルクは冷ややかに尋ねた。
──正直、十七のレディが好むような読み物ではないわけで…
変わった女だとハルクは思った。
しかし、そんなハルクの真意も知らず、梗子は問われるままに目を輝かせて答えていた。
「とっても面白いです」
「…とっても?」
「ええ、とっっても!」
差し出された大きな本を、両手で受けとる。
「同じシリーズの近代建築史はこの前に読んだの。今はヨーロッパの建築を調べていて」
細い指が表紙の金文字を優しくなぞり
梗子は品の良い笑みをハルクに向けた。
《天使の微笑み》
凰鳴の全生徒からそう称される微笑みを──。
「……、キミはヨーロッパが好きなのか」
「建築が好きよ」
「なら、将来は建築家?」
「そうなるのが夢です」
「夢…」
“ のんきな女… ”
どんな男子でも一発で射止めらただろう彼女の微笑みを見たハルクだが、彼は変わらずの温度で問いかける。