この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
堕ちても
第2章 カマキリ
古びた木の戸を、がらりと開けた。
「おはよう、今日子ちゃん」
奥の方で、主人が新聞を読みながら言った。
「おはようございます」
主人に、愛想よくほほえむ。
いつもどおり、わたしはエプロンをつけ、棚の隅々をそうじし始めた。
わたしは、この古書店が大好きだった。
こどものころから通っていて、ここの主人も、わたしをずっと前から知っている。
コネというわけではないが、わたしはアルバイトとしてここで働いている。
むかしから、本が大好きだった。
本さえあれば、世のなかの悲惨な現状やら、世間の塵芥(ちりあくた)の世界から、逃避することができる。
そして、キタナイ、男からも―――。