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バックヤードの誘惑
第4章 昼の顔と夜の顔
どんな顔して店にでればいいの・・?
美佐江の足は重く、心臓の鼓動は
破裂しそうなほど大きく打った。
店の表ではすでに出勤している紀子が
ガラス戸の拭き掃除をしていた。
「おはよう!あらぁ吉沢さんお疲れ?
そうか、昨夜残業だったからね、ご苦労様」
60近い深町紀子は美佐江にとっての
敗北の舞台になったとも知らずに
満面の笑みで店内へと導いた。
控室に入ろうとしたところで
和樹と出くわした。
一瞬身が固まったが、
それを悟られないようにすぐに態度を変え、
「おはようございます」
落ち着き払った声であいさつをした。
ここで動揺したら完全に私の負け・・
美佐江はまるで戦いを挑むかのように
強気の眼差しを取り戻し、和樹に向けた。
「おはようございます。昨夜はご苦労様でした。
おかげで助かりましたよ」
和樹はもっと、役者が上だった。
まったくといっていいほどその眼差しは普段通り。
温和で素敵なオーナーの顔だった。
本音を言えば、一線を越えたことで自分への態度はガラッと変わる、
2人きりの時なら落とした喜びを振りかざすだろう、
そう自惚れていた。
でも期待は大きく裏切られた。
「どうしたの?」
固まったままの美佐江を不思議そうに見つめる和樹。
どうしたのじゃないわよ!
そう言ってやろうかと思って顔をあげた瞬間
背後から紀子の声が聞こえた。
「社長、運送屋さんが呼んでますよ」
「はい、今行きます」
美佐江を無視するように横をすり抜けていく和樹の香りが、
憎らしいほど鼻についた。