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蝶は愛されて夢を見る~私の最愛へ~
第32章 《巻の四―散(ちる)紅葉(もみじ)―》
篤次は銀杏の樹の下に茫然と立ち尽くす。
何か温かくて、ふわふわしたものが脚に触れるので、ふと見下ろす。小さな黒い猫がいつどこからともなしに姿を現し、篤次の脚許にすり寄っているのだった。泉水が可愛がっていたくろである。
「おい、お前、どこに行ってたんだ?」
くろが急に姿を見せなくなって、泉水はひどく心配していた。そのことを、篤次はもう随分と昔のことのように懐かしく思い出していた。