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蝶は愛されて夢を見る~私の最愛へ~
第38章 《巻の壱―別離―》
もっとも、その瞬間(とき)瞬間(とき)は、到底それどころではなく、そのように落ち着いて事態を静観できるほどの心のゆとりはなかった。無我夢中で、まるで大海の荒波に翻弄される木の葉のように、心はいつも烈しく不安に揺れ動いていた。このように落ち着いて過去を振り返ることができるようになったのは、今、落ち着いた穏やかな暮らしの中に身を置いているからだろう。
泉水は感慨に囚われながら、時橋の背中を見つめていた。