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第39章 《巻の弐―黒い影―》

　泉水を穏やかなまなざしで見つめていたのは、榊原家の家老脇坂倉之助であった。泰雅の父泰久の代から仕える重臣の中でも筆頭格である。何よりも榊原のお家のことを第一に考え、情よりも理と利を重んずる男でもあった。
「お方さま、本日はお願いがございまして、こうして江戸よりはるばるお伺い申し上げました。どうか、何も仰せになられず、私と共にお屋敷にお戻りになられては下さいませぬか」