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蝶は愛されて夢を見る~私の最愛へ~
第50章 《巻の参―臥待月の夜―》
 殺してくれ、と懐剣を握らされた時、泉水は心の中で叫んだのだ。
―私には、この男を殺すことはできない。
 それは、亡き兵庫之助に対して、許されぬ裏切りのようにも思えた。
 泉水は涙を流しながら、空を見上げる。
 障子の向こうはいつしか白み、冷ややかな明け方の空気を映し出していた。伏待月も次第に明るさを増してくる空の中で、煌々とした光を失い、白っぽく霞んで見えた。
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