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蝶は愛されて夢を見る~私の最愛へ~
第50章 《巻の参―臥待月の夜―》
それとも、泰雅への詫びではなく、ついに仇を討ち果たすことの叶わなかった不甲斐なさを、兵庫之助に詫びたのか。
泉水には、どうしてもできなかった。〝ひと想いに殺せ〟と、あっさりと生命を差し出す泰雅を前にして戸惑ってしまった。
あの時、泰雅を殺そうと思えば、殺せたはずだ。恋しい男、ただ一人の男だと思う兵庫之助の仇を討ち、その無念を晴らすことは可能であった。にも拘わらず、泉水は泰雅を殺さなかった、いや、殺せなかった。
泉水には、どうしてもできなかった。〝ひと想いに殺せ〟と、あっさりと生命を差し出す泰雅を前にして戸惑ってしまった。
あの時、泰雅を殺そうと思えば、殺せたはずだ。恋しい男、ただ一人の男だと思う兵庫之助の仇を討ち、その無念を晴らすことは可能であった。にも拘わらず、泉水は泰雅を殺さなかった、いや、殺せなかった。