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第55章 第一話　【春雷】

　源太夫は情理を備えた名奉行として〝仏の源さん〟と呼ばれて江戸庶民からも慕われていた。名奉行〝源さん〟の息女の名を知る者はおらずとも、〝お転婆姫〟というあだ名で江戸っ子たちからは親しみを込めて呼ばれている。もっとも、彼等は泉水の貌も当然ながら見たこともないのだが、泉水のお転婆ぶりが口づてに広まるにつけ、あたかも実際に姫を見たことがあるかのように江戸っ子たちの間で取り沙汰されるようになった。