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蝶は愛されて夢を見る~私の最愛へ~
第57章 《壱》
維助の作った簪は売れゆきも上々、殊に若い娘がその可憐で繊細な細工を好んで買っていた。独り立ちしてからもすべては上手くいっていたのだが、その数年後、思わぬ不幸が起こった。
維助の留守中、実家の煙草屋が火事になったのである。その夜、維助は〝花や〟の順太郎の祝言に呼ばれていた。事件はその最中に勃発、町火消が駆けつけた時、既に手の尽くしようがない有り様で火が家中に回り、維助の住み慣れた我が家は紅蓮の焔に呑み込まれていた。