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第57章 《壱》

　いつだったか、亭主当人が呵々大笑して話していたという。おきぬの言によれば、裏店暮らしの身をいささかも卑下することもなく、他の連中とも顔を合わせれば向こうから挨拶してくる。いつも飄々とした気さくな男ということだった。
　それを聞いた時、何故か、維助の中に苦いものが湧き上がり、胸にちりちりと灼きついたような痛みが走った。その得体の知れぬ感情がおせんの亡き亭主への嫉妬だとは、死んでも認めたくはない維助であった。