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第58章 《弐》

　その切迫した雰囲気に、これ以上ここにいては駄目だ、帰らなければと思う反面、身体は意思とは拘わりなく、脚がその場に縫い止められでもしたかのように動かない。今宵こそは、精根込めて作り上げた簪を渡そうと一世一代の覚悟を決めて訪ねてきたのだが、どうやら来てはならぬときに来てしまったようだ。
　中に入ろうにも入れず、ましてや、声をかけることさえ思いも寄らない。維助は途方に暮れ、その場に立ち尽くした。