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蝶は愛されて夢を見る~私の最愛へ~
第58章 《弐》
夜のどこかで、虫が鳴いていた。時折涼しい夜風が吹き抜けてゆく度に、道端にそこだけひとかたまりになって自生する芒(すすき)が長い穂を揺らす。深い、どこまでも続いてゆくような群青色の空で円い月が煌々と輝いている。
芒の群れの向こうに見える月を、維助は複雑な想いで見上げた。銀色に輝く月は大きく、眼前に迫っているようにさえ見える。手を少し伸ばせば、すぐにでも届きそうなほど近くにありながら、けして届かぬ、触れることも叶わぬ月。