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第60章 《其の壱》

　源太夫の歓びはひととおりではなかった。弥子もまた心の中で貴美子の懐妊を何よりもめでたいものと思ったけれど、いくばくかの不安は消えない。
　貴美子は生まれつき身体が弱い。元々心ノ臓に錐で刺したほどのごく小さな穴が空いているとのことで、しばしば発作を起こす。いずれもごく軽いものではあったけれど、その持病のせいで、貴美子は物心つくかつかぬ時分から、外で遊んだことはなかった。